【南米モン遊記】3日目

①宿


まだ暗いうちに目を覚ます。時計をみると午前5時だった。
さすがにこんなに早く起きてもやることがない。
もう少し寝ようとするが、12時間以上寝ているせいか、寝られない。30分くらい粘ったがあきらめて、起きる。
そして、日本を発って以来、風呂に入っていないことを思い出した。
宿のシャワールームは狭くて汚かった気がしたが、他に選択肢はないので、いやいやながら使うことにする。
記憶に間違いはなく、狭くて汚い上に、お湯もほとんど出なかった。
そろそろ、「日本語で会話ができる」点を差し引いても、ここを選んだことを後悔し始めた。
そして、それはそのままブラジルなんぞに旅行に来たことへの後悔につながる。
シャワーを浴びて歯を磨き終わった時、時刻は6時過ぎ。
外はまだ暗い。南半球のブラジルでは、まだ早春だからだろう。


先に述べたように、宿は二部屋のアパートメントだ。
そしてオレと同じ部屋にオーナーが寝泊りしている。
この時分も横でグースカ寝ている。
6時台に電気をつけたり、ゴソゴソするのは、申し訳ない気がして、荷物の整理や旅程の確認などは、もう少し待つことにした。
スマホWiFiにつなごうとしたら、なぜか反応が悪く、いつまで経ってもつながらない。どうなってんだ、ココは!


前言を撤回し、電気をつけ、ゴソゴソを荷物を整理し(昨日は到着して、ほとんど何もしないで寝ただけだったのだ)観光に行く準備を整えた。
7時になった。外も多少明るくなってきた。
昨夜、待ち合わせをすっぽかしたことを詫びに、もう1室にいた日本人に挨拶に行く。
ノートPCが目に留まったので、ひとしきり詫びた後、返す刀で「PC貸してくれませんか?」と緑と金のツートンヘアーに切り出す。かなりしぶしぶだったが、貸してくれた。


何のためにPCを使うのかというと今回の旅行は初日と最終日の宿以外、何も予約していなかったのだ。
しなくて正解だった。全部、日本人宿でとるところだった。
これが毎日だったら、途中で旅を投げ出す自信がある。
さりとて、このデンジャラスな国で行き当たりばったりで探すのも怖いので、残りの日程の宿と長距離の移動手段を確保することにした。


1時間くらいで作業は済んだ。途中「まだすか?」とか不機嫌な声で聞いてきたので、「もうちょっと」を4回くらい返した。
ここでやっと、心から一息つけたと思う。
旅行の算段がたったからだ。後は安全にさえ、気をつけて行動すれば、なんとかなるだろう。
ようやく観光気分になってきた。


コルコバード

時刻は8時。外も明るい。晴れだ。
まずは、昨日決めた通りにリオの目玉コルコバードのキリスト像を見に行くことにする。宿からは、地下鉄を使うのが一番手っ取り早い。
というか、移動手段はたぶん地下鉄以外使わない。
個人で、リゾート地以外を、海外旅行したことがある人は分かると思うが海外のバスというのは、慣れないと使いづらいのだ。


安全対策として、現金をデニムのポケットと肩掛けバッグに2分割する。
そして肩掛けのバッグは2つ使う。1つにはマップや水などよく使うものを、もう一つに現金などの貴重品を入れた。用心するに越したことはない。


アパートメントの外に出ると、近くに病院と警察署があることに気づく。
警官の数も多い。少し安心できた。たぶん、夜遅くでなければ、この辺は普通に歩けるだろう。
高揚した気分で最寄りの地下鉄駅に向かう。その前に、昨日と同じジューススタンドに立ち寄る。
南米の朝はフルーツから始まるのだ。
おっちゃんは覚えていて、親指を立ててくる。
こっちも「ハロー」と陽気に挨拶する。通じたかは分からない。
英語が通じないのは、承知しているのでオレンジを指差して、これのジュースをくれ、と伝える。
うむ、まったく美味しくない。


おっちゃんに挨拶して、店を出た後、迷うこともなくメトロの駅に着く。
きっぷもスムーズに買え、地下鉄にも問題なく乗れた。
ブラジルの地下鉄は怖いイメージがあったが、幸い何も問題は起きなかった。
コルコバードの丘の最寄駅に着く。
さて、ここからどうしていいのか分からなかったが、駅に即席のインフォメーションセンターがあったので聞くとなんとなく分かった。即席の、というのは、リオ五輪&パラリンのために臨時で各駅に用意されたものだそうだ。


地上に出ると、太陽が眩しく、初めて「おお、南米だ!」という実感が沸いた。
町並みもどことなくコロニアル。いい感じに旅情が出てきた。
駅の出口が広場になっていて、そこにチケット売り場があった。
チケットを買った後、バンに乗って丘の上にあるキリスト像まで連れて行ってくれるらしい。
ちなみに、人気があるのが、キリスト像まで丘を上っていく電車コースだがこちらは待ち時間が長い上に、料金も高い。ノーグラシアスだ。
バンに乗って、丘を登っていく。南国風の家が立ち並ぶでこぼこ道をガタゴト言いながら登っていくのは、旅情があって悪くない。
30分ほど登ると、施設の入り口につく。土曜日だということもあり、そこそこの混雑状況だ。
キリスト像にたどり着くために、そこからさらに20分ほど歩いたりした。
そんなにまでしてみる価値があるのか、コルコバードのキリスト像


結果から言うと「ふーん」という感じでした。
格別感動はしない。が、某マーライオンほどがっかりというほどでもない。
なんといっても巨大だ。でもそれだけ。
どちらかというと、丘の上からリオの町並みを一望できるので、
そっちの写真を撮っている観光客が多かったように思う。
コルコバード、終わり。来た道を、同じ時間かけて戻っていく。


③コパカパーナ・ビーチ


再び、地下鉄に乗り、今度は有名なコパカパーナ・ビーチ近くの駅で降りる。
(どうでもいいけど、コルコバードとかコパカパーナとか紛らわしいよ)
駅からビーチまでは結構遠い。普通に歩いて5分はかかる。
でも、迷うことはないだろう。「「ラテン!」という感じの町並みを堪能しながらビーチ方向に歩いていく。
ここで気づいたが、この街がそうなのか、南米がそうなのかは分からないがアジアやアラブと違って、待ち歩いていても物売りに声をかけられることが非常に少ない。
ストレスなく歩ける。いいことだ。


視界が開けて、ビーチが見えてきた。
青い海。白い砂浜。日光浴したり、ビーチスポーツを楽しむ水着の人たち。
もう9月だけど、しかも南米の季節は冬だけど、今年一番の「夏!」って感じだ。
真夏のSounds good で、裸足でSummer だ。
予備情報どおり、お姉さんたちはかなり大胆な水着だ。
Tバックみたいなのもいっぱいいる。
しかし残念ながら、まったく興奮しない。理由は察してくれ。
国際問題に発展するかも知れないから、記載は控える。
ちくしょう、乃木坂を出せ!!ああ、ななみんがここにいたらなあ!!
リオのビーチでデートしたい。いや、リオじゃなくてもいい。
っていうか、ななみんとデートできる立場ならそもそも、こんなところまで来たりしない。
乃木坂のことを考えていたら、「なんでオレこんなとこにおんねん・・・」という
虚しさがこみ上げてきたので、ビーチ歩きはそこそこで切り上げた。
ようやく出てきた旅情も薄れかけてきた。


気を取り直して、せっかくだから何か食べようと思い立つ。
昨日の朝、飛行機を降りてから、早稲田の学食レベル以上のものを食べていない。
ブラジルといえば、肉やろ。というわけで、シュラスコを探す。
探すが、これがなかなか見つからない。日本で考えるほど、大衆的な食事ではなく、
それなりに特別な料理なようだ。値段もはる。
このあたりは観光エリアなのに、なかなか見つからない。
ようやく見つけたところは、ちゃんとしたレストランで一人で入るには憚られた。
憚られたが、「恥はかき捨て」と周囲の視線を無視できるのが、旅のいいところだ。
ピシっとしたみなりの店員が戸惑っていたが、なかば強引に店に入る。
ちなみに、本日の私は日本を出たときと同じ服装。
つまり3日間同じ服で、さすがに結構汚れている。
シャワーは浴びた。しかし宿が狭すぎて、荷物を整理する気が起きないのだ。


強引に店に押し入った結果は、大後悔。
①ベースが大しておいしくない。
②量が半端じゃないない上に、「早く食べて出て行け!」とばかりに、すごいスピードで肉が運ばれてくる。食べるスピードが追いつかない。そして肉は冷めると、もはや不味い。食事を楽しむどころじゃない。肉の塊を息つくヒマもなくかきこむ。もはや苦行だ。
③高い。日本円に換算して、3000円はした。
30分ばかりで、まったく楽しくない食事を終えた。腹がはち切れそうだ。
ちなみに、ブラジルのローカルレストランでは「肉料理の量り売り」というのをやっている。
好きな肉を好きなだけ皿にとって、その重さによって値段が変わるというシステムだ。
これは日本に比べて、かなり格安らしい。これは庶民的な店で提供しているので、あちこちにある。
俄然、こっちにしとけば良かった。
疲れたので、宿に戻る。時刻は15時くらいだ。


④セントロ(旧市街)周辺


オレが泊まっている宿については前述したとおり、快適でないのだが、ロケーションは 抜群だ。
リオの観光エリアは、コルコバードやビーチを除けば、旧市街がメインで、宿からは徒歩圏内。
このあたりは、ポルトガル植民地時代の建築が残っている。コロニアルな街並みをベースに、その後住んだ人がアレンジした、そんなイメージだ。
こうした雰囲気の街歩きも楽しい。街が明るいうちは、人通りも多く、そんなに危険は感じない。
ただ、スリに警戒して、気がつくと手が無意識にショルダーバッグを押さえている。
自分でも、まだ緊張感が解けていないことが分かる。


具体的な建築物で言うと、やはり教会が中心だ。
その造りは、ヨーロッパのそれと変わらないのだが、そこに黒人がいるのが、新鮮だ。
建物自体では大して魅力じゃないが、そこにいる人や周囲の景観と合わせて、ヨーロッパとは違う雰囲気がを作り出している。
ただ1つだけ、建物自体に興味がある場所があった。
幻想図書館」という図書館だ。宿のオーナーにも勧められた。
ハリー・ポッターの映画に出てくるような、巨大で不思議な造りの建築らしい。
ワタクシ、「幻想」という言葉からは、ドラクエやFFを連想する世代でございます。
そういえば、アルゼンチン出身ホルヘ・ルイス・ボルヘスが『幻獣辞典』という本を書いているし『アルケミスト』を書いたパウロ・コエーリョはブラジル人だ。
ガブリエル・ガルシア・マルクスも現実と非現実の区別がない作品が有名だ。
南米の作家の特徴はマジック・リアリズムを良く使うこと、と昔大学で習ったことがあった。
「なんのこっちゃ」と思っていたが、南米にはファンタジー(非リアル)がナチュラルに根付いている、ということなんじゃないか、と勝手に解釈した。悪く言えば、「未開」ということなのだろうか。


幻想図書館、あいてなかった。
入り口にいた現地人がしきりに首を横に振って「NO!」とジェスチャーしている。
後でオーナーに聞いたら「幻想図書館は土日休みですね」と言っていた。
一瞬、怒りが顔に出たかも知れない。
建築物ではないが、あと良かったのは「セラロンの階段(エスカダリア・セラロン)」だ。
すごく雑に言うと、落書きがしてある階段なのだが、落書きもここまで徹底していると結構なインパクトになる。この落書きという文化、バッドボーイズな感じがして、まさに南米!って感じだ。


18時くらいになると、結構暗い。
暗くなると、やはり怖い。早々に宿に戻ることにした。


⑤宿(夜)


さて宿に着くと、オーナーとスキンヘッドの旅行者がいた。
スキンヘッドで歳は20代半ばから30代前半までの範囲で、いくつにも見える。
部屋で夕飯を食べている。こういう風にオーナーが客室で自分の夕飯を食べているのも、個人的には若干嫌なのだが。何も言わなかった。
「どうです、一緒にビラ・ミモザ行きませんか?」と聞かれた。
2人で行くらしいが、もちろんオレはそこが何か分からない。
が、二人にニヤニヤした顔から想像は着いた。風俗街のことだ。
一応聞いた。「有名ですよ知らないんですか?日本の吉原みたいなもんですよ」と
(ナニ、お前知らないの!?)くらいの反応が返ってきた。
人は見かけによるものだ。しかし、まったく印象がプラスに働かない。
オーナー曰く「いや、横田くんがぜひ行きたいって言うから。彼すごいんだよ、昨日も両替した後さっそく他の風俗店行ってきたからね」
オレ「へえ、マッサージ行った後ですか?」
「そう、そこです。あ、行くって言いましたね」
微妙に会話がかみ合わない。
オレ「そのマッサージ屋が、性サービスついてるとこだったってことすか?」
「ああマッサージ・パーラーっていうのはただの名前で、普通の風俗店です」
素朴な疑問が沸いてくる。
オレ「そのマッサージ・パーラーって有名なんですか?どうして知ってたんすか?」
オーナー「僕も正直知りませんでしたね」
wikiのsex版みたいな海外サイトがあるんですよ。それ使えば、大体その都市の主だった風俗店は分かるんです」
wikisexだか、sexpediaだか、そんな名前の海外サイトらしい。
話を聞くと(聞いてもないのに喋ってくれた)、彼は現在旅人で、気の赴くままに各地を旅している。
それで新しい都市に着くと、最初にその街の風俗に行くらしい。
各地のセックスを求めて、旅をしているといっても過言ではないそうだ。
ちなみに少し前まで、黒人にハマっていたようだがコロンビアで、ちょっとした事故に巻き込まれてからは嫌気が差したという。
ブラジルのビラ・ミモザはかなり有名なので期待値は高いようだ。
昨日のマッサージ・パーラーも満足度は高かったようで、自然と期待が高まる。
オレ「ナニがそんなに良かったの?」
「褐色の肌でグラマラスなんですよ、そういうの好きで。まあ豊胸の後が見えたんですけど、それくらいは。あと、普通にアナルやらせてくれたのが、嬉しかったですね」
他にも何か言っていた気がするが、あまり覚えていない。
オーナーは食事を終えてシャワーを浴びに行った。
その間に、セックス以外の彼のことを聞いた。
何年か前に日本を出て、オーストラリアとかニュージーランドで、ワーキングホリデーを数年した後、世界各地を旅しているらしい。もっと詳しいことも聞いたが、ここでは割愛する。
旅行に関して1つ分かったのは、コロンビア含め危険な地域を旅しているが、大体彼のトラブルは性がらみということだ。逆に言うと、それ以外はたいした危険もないそうだ。


オーナーがシャワーから出て、2人は快楽の世界へ誘われていった。
オーナーもやる気満々に見えた。オレは遠慮した。
昼のシュラスコでまだ満腹のままだ。あのオーナーが使った後だから気が引けるが、
シャワーを浴びて、ようやく荷物の整理をした。服も3日ぶりに着替えた。
そして軽く眠りについた。時刻は19:30くらいだっただろう。


22時くらいに目が覚めた。やることもないので、
隣の部屋にいる緑と金髪のツートンに挨拶に行った。
明日にはここを経つのだ。
行ってみると、ツートン以外に新たに2人の日本人が来ていた。
結構いい体格の2人組だ。
うち一人は恐ろしくいかつい顔をしている。歳は40越えてるだろう。
一人は体格はいいが、朴訥そうな顔つきだ。同い年くらいかもしれない。
さっき風俗トークをしたせいか、「こいつらも行くんだろうか」
という視点で改めて3人をみた。ツートンは間違いなく行きそうな顔つきだ。
いかつい顔つきの方は性欲が半端じゃなさそうだ。
大人しいほうはムッツリかも知れない。「行こうぜ!」という感じではないだろう。


部屋に戻ると、ビラ・ミモザから戻ってきたオーナーがまだ起きていた。
特に話すこともないので、挨拶だけして寝た。
結局、4日間、まったくスマホを見ていない。まあどうせ、大した連絡などないだろう。
問題ない。