もうこんなにグショグショBBQ



男子たるものいつ何時いかなるときでも逞しくあらねばならぬ。
有史以来、以前、どちらでもいいがオスの役目は食料、すなわちシーメーの調達であった。雨の日も風の日も雪の日だって竜巻の日だって外に出てシーメーを獲ってくる。それがスーオーの役割だ。
そんなわけで30代精力減退気味のスーオーであるオレは野外にピョーンと飛び出した。このシステム化されきった倦んだ管理社会に背を向けて、頼れるものは我が身ひとつ、荒地へと走ったのだ。平たく言うとキャンプ場でバーベキューしにいった。プーキャンでキューバーベーだ。


最近はアウトドア用品の種類、性能ともにすんごいことになっているが、オレはそんなに軟派じゃない。ふざけるんじゃない。必要なものは炭と網。そんだけだ。火をおこして網かけて肉を焼く。それで十分。それが男の料理。スーオーの戦い方だ。
鼻息も荒くオレはクルマに乗り込んだ。シャバダバと疾走し、目的地に到着する。


現地で待っていたのは大降りの雨であった。
雨がなんだ、雨だとBBQは出来ないなんて誰が決めた。こんなもんでオレを止められると思ってんのか。でもナニかあったら困るから一応管理人に訊くぞ。ダメならダメですぐに帰り、安全を確保することも優れたスーオーの判断だ。
「この雨でBBQできますかね」
「さあなんとも…やってみないとわかんないですね」
なんて煮え切らない返事だ。それでも男か。ダメならダメってどうしてはっきり言わない。業を煮やした今回の連れ(30代男性精力減退中)も重ねて訊く。
「いや、でもこの雨で火ってつくんですか?」
「さあ…まあやってできないことはないと思うけど…どうなんだろう(ニヤニヤ)」
一体なんだ貴様は。どうしてさっきから玉虫色の返事ばかりなんだ。なぜきちんと答えない。なぜはっきりと「いや、この雨じゃムリ。止めた方がいい」と言わない!空気を読め!わかれよ!もう!


もうどうしようもない。だから日本人は曖昧でダメなんだ、とブツブツ文句を言いながらセッティングを行う。雨は弱まるどころかジャンジャンバリバリ降りつける。客はオレたち以外には誰もおらぬ。広大な自然を独り占めだ。独り占めだが嬉しくはない。なぜなら雨で景色は煙っているからだ。川だってシャバダバな勢いで流れている。


カッパを持ってないので、あっという間に背中はずぶ濡れだ。傘はあるが常に火の上に配置。体より火だ。ここまできたら精一杯トライするしかないじゃないか。精一杯トライしたいので着火剤も大量に放り込む。炭も一気に放り込む。やってやれないことはない。やってもできないこともある。できなければできないでいいぞ。むしろあっさりと火おこしに失敗しましたぁ、ということになってそそくさとご帰宅なんてことになっても一向に構わないぞ。早く終われ。


ところがあろうことかアルマイト鍋か、あっという間に炭はゴンゴンと燃え盛る。燃えちゃったものは仕方ない。お互いにヘラリとした笑みを浮かべながら肉を網に並べる。傘は常に火の上。肉はアツアツに焼けるが、人間はビショビショ。しかもケツに敷くもの忘れて常に中腰。まったくもうこんちくしょうと荒れ狂う野獣の心で肉を食えば、一応それはそれで美味しい。美味しいからどんどん食べる。早く帰りたいからどんどん食べる。早くクーラーの効いたおうちでゴロゴロしてアイスとか食べたい。牛角とか行きたい。
お互いに仕事では絶対に見せることの無い手際のよさで肉を片付け、後始末をする。こういう野生に近いところでこそ真の実力が発揮されるのだ。仕事ではその実力を出さないだけだ。


すべて終わったことを確認し、心なしか早足でクルマへ戻る。オレも連れもグショグショだ。一路東京へ。助手席の女が「あたし、もうグショグショ…」などと言えばそれなりに桃色気分でついついホテルなんぞへクルマを滑り込ませるが、現実は違う。オレの横にいるのは濡れ鼠になった30男。うつろな目つきで「もうグショグショ…」などとほざいている。どうしようもねえポンコツ野郎だ。蹴り出してやろうか。
そういう同じくポンコツのオレもすっかりビショグショ。しかもBBQの途中で放尿した際、ついついアナルから別のものまで「こんにちは!」したので、アナル周辺までグショグショでシャバダバだ(一応、応急処置はしている)。三十路を過ぎるといろいろなところが緩むというが、オレの場合は緩むというより、自然豊かな環境に身をおいたことで眠れるオレの野生が目覚めたのだろう。(主にアナル周辺での)野性の解放だ。


さて、今回、厳しい自然の洗礼を華麗にくぐり抜けることができたのはひとえにオレたちの持って生まれた猛る野性のおかげである。決して安易に真似をしないようお願いしたい。バーベキューは天気の良い日にしましょうネ!(汚れたパンツを洗いながら)