お前のすべてをビショビショにしてやる(オレの腋汗で)



生まれて初めてアロマキャンドルを買った。
スカしているだの、モテようとしているだの、非難は甘んじて受けようじゃないか。


だが、これだけは言わせてほしい。
購入の一番の動機は、単に部屋の異臭が臨界点を超えたことだ。


大体な、アロマキャンドルごときでモテるようになるわけねえってんだ。アロマ炊こうがガンジャ炊こうが、そもそもこの部屋を訪れる人なんかいねえってんだ。
てなわけで、早速こじゃれた雑貨屋へ。おう、なかなか種類が揃ってんじゃねえか。店内はすっかりクリスマス模様で浮かれ気分のカップルだのが仲良く品定め中だ。店と客が一体となって醸し出す「なんかシャレオツで幸せです」オーラに反抗して、全身から「ボクに構わないで下さい」オーラを発散。
小賢しそうなカップルがボディーソープを見て、何が可笑しいのか仲良く顔見合わせて微笑みあっている。何がおかしいってんだ。そんなにそのボディソープは面白いんですか?そんなに愉快なんですか?世界は平和ですね!お風呂で世界平和ですね!どうせそれ使って「俺の真っ赤のお鼻のトナカイさんは発射オーライだヨ!」とか言うんだろ!


深く心を閉ざしながらオレはオレで品定め。結構アロマキャンドルって高いもんなんだなコノヤロウ。あれやらこれやらと匂いを確かめては棚に戻す。
なんでラベンダーやらオレンジやらレモンだの、植物の香りのやつばっかりなんだ?なんで普通に石鹸とかお日様とかの香りのは無いんだ?なんかこうもっと、男の心をくすぐるような鰹ダシとか煮しめた学生鞄といった硬派な匂いのものはないのか!


で、ようやっと納得のいくものを発見してレジへ。
店員は「プレゼント用ですか?今なら無料でギフトのラッピングもできますよ」とのたまう。
嗚呼、お嬢ちゃん。それ言うと思ってたぜ。言うだろうなと思ってたらホントに言うんだもんな。おじちゃんイヤんなっちゃうな。もっと、こう、なんつうかさあ、意表を突いてくれよ!な!
「いえ!自分用です!たとえて言うなら、そうですね、自分へのギフトです!」


冬の冷え込みはいよいよ本格的になってきたが、オレの部屋はいいニオイになった。
香りは「シャンパン」です。どうだ。オシャレって言え!セイ・オシャレ!

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フロム・ヘル / アラン・ムーア(作)エディ・キャンベル(画)


切り裂きジャックをストーリーの縦糸として、19世紀の病めるイギリス(てきとう)を包括的に描いたコミック。
とにかく重い。そして怖い。そして難しい。まだ読みきれない。
アロマキャンドルを購入する前、「小賢しい香りとかじゃなくて単に洗剤の匂いが好きなんだよな・・・ハッ!ならば洗剤を部屋に撒けばいいじゃねえか!」と考え、霧吹きに液体洗剤を入れて思いっきり部屋にブチまけたら、見事に壁とか色んなとこが傷んだ。すっかり荒んだ部屋になってしまったのだけれど、きっと当時のロンドンもこんな感じだったのでは。漂白されたような傷みを湛えた建物の壁と、血の染み込んだ石畳。今宵の虎徹は血に飢えておる。冷たく黒い雨が心に降るぜよ!