台湾の夜はワンワンニャンニャン(1日目)



「台湾はどうじゃろうか」
と奴は言った。
「どんなもんじゃろうか」
とオレは答えた。
「なんでも夜市なんてもんがあるらしいのう」
「なんだか卑猥な響きだのう、いいのう」
「しかし何か見るもんとかあるのかのう」
故宮博物館とかいうもんがあったような気がするのう」
「ほんだらまあ、行ってみますかザーボンさん」
「そうしてみますかフリーザ様」


ということでオレは機上の人となり、台湾に向かった。
オレは新幹線や飛行機に乗ると一時的にテンションが上がるので、「この時間を無駄にしてはいけない!」との思いが強くなり、同行者を眠らせまいとマシンガントークを浴びせることにしている。今回の同行者(30代男性・想像童貞)はなんでも前夜ほとんど寝ていないらしく、席に着いた途端にウトウトしてやがる。どうしようもないスットコドッコイだ。
早速オレの華麗な中身カラッポのマシンガントークで奴を眠りの淵から呼び戻す。明らかに不愉快そうだが、なあに構うものか。この貴重な時間を無駄にしてはならない。オレと積もる話をしようぜ!いざとなったら乳首にカラシでも塗ってやるぞ!
それから2時間後、オレはいつの間にか夢の中の人となり、気がついたら飛行機は台湾の地に降り立っていた。
「今回も危ない旅になりそうだぜ」
台湾の風は生温く、不穏の匂いを孕んでいた。死線をその度にくぐりぬけてきた数々の過去の旅の記憶が呼び起こされる。ミャンマー南アフリカアゼルバイジャン、命をいつ落としてもおかしくない旅だったぜ、みたいな話をインターネットで読んだような気がするなあ、とハァンとオレは欠伸を一発かました。
台湾の桃尻空港(桃園空港)は想像していたよりもずっと綺麗でしっかりしており生意気だな、と思いつつとっとと台北市内へと向かう。
「こんなところに用はねえんだ!ペッ」
とバスのチケットを運転手に叩きつけ、一路台北市街地へ。
バスの窓から見える風景は至って、こう、なんつうか、日本の普通の地方都市みたい。変な衒いもなく、個人的には非常に好感を持てる。
そんなこんなで40分くらいで市街地中央へ到着。なんだか雨と風が強いような気がするが、気づかないふりをしてホテルへ殴りこんだ。


「さて、これからどうしますかねドドリアさん」
ホテルの部屋で一息ついたオレ達は膝つきあわせ旅程を考える。このとき時刻は現地時刻で17時だかそんなもん。元々はホテルに殴りこんだあと返す刀で九份へ行く予定だった。だが改めて現地において天候と空気の流れと我々の体力状況を勘案しPDCAを回すことを検討した結果、早い話がなんかめんどくさくなっちゃったので、急遽九份行きをあっさりと取りやめにしたのだ。
「行くか、ヒデ」「おうよ、ゾノ」
オレたちはすっくと立ち上がり夜の台湾へ繰り出す。まずは夜市で腹ごしらえだ。当然メニューを読んだって中身を理解できないので気合と根性でガンガン注文する。
謎のまんじゅうに始まり、謎のカレー、謎の牛肉麺。フガフガと下劣な豚のように様々な飯を貪ったオレたちはひとつの仮説を導いた。
「台湾のメシ、味薄い」
わりかしメシに期待してきたもんで、ちょっとガッカリしたとも言えるしそうじゃないかもしれないなあ、とアホ面しながら今度は別の夜市へ。
オレらが向かったのはあーりん、もとい、士林夜市台北でも指折りのソービッグでビンビンな夜市だ。雨はもうジャンジャンバリバリと降りつけており、わしらもうビショビショ。せっかくの夜市だが慌てて謎の喫茶店に駆け込み謎のタピオカミルクティーを啜り込み態勢を整える。
オレはどうしても胡椒餅だかなんだかそんなのが食いたく、同行者のスットコドッコイはどうしてもマンゴーかき氷だかなんだか名前からして卑猥な食い物が食いたいらしい。
雨の弱くなった瞬間を見計らい、夜市を駆け抜ける。アスファルトはタイヤを切りつけながら暗闇を走り抜けるのだ。チープなスリルに身を任せていると、なんだかやたらとソーセージの店が多いことが目に付く。『狂ったソーセージ』の異名を持つオレとしては黙って通り過ぎるわけにはいかないが、あまりにもそのソーセージがソービッグで電動コケシに例えるならば「覇王」とかそういったネーミングになりそうなサイズなもんで、見ただけで胸やけを起こした。
そろそろ書くのに飽きてきたので急に端折るが、結果オレはまんまと胡椒餅をせしめ、同行者はマンゴー氷をゲヒゲヒ言いながら見事に摂取。ソーセージを見る度に「オゥ、ビッグ!」と2人でのけぞりながら夜市を堪能したのであった。
その後、足裏マッサージをズンドコと受けて、オレはすっかりリラックス、同行者は「痛い、痛いよう」と童貞ならではの声をあげていたのだった。
台湾の夜は長く、こうして更けていったが、オレらおじさんたちはすっかり疲れちゃったのでとっととあったかいお布団にもぐりこんで寝たのでした。
(2日目につづく)