【南米モン遊記】1日目

①自宅〜成田〜シカゴ


13:30に家を出る。
南米に限らず、海外旅行はまず空港に向かうところから始まる。
一度でも海外旅行したことがある人ならば、それが苦行であることが分かるはずだ。
まして一人旅ならなおさらだ。
どんなに入念に準備してたとしても何かを忘れてるような感覚から逃れられない。何度も荷物を確認してしまう。
飛行機に遅れないか、そわそわする。
そして初めての土地にいく場合、楽しみよりも不安が先立つ。


今回に関して言うと、パスポートの確認はしなかった。
到着時間もギリギリだった。正直「飛行機乗れなくてもいいや」というくらいテンションが低かったからだ。結果的には、何の問題もなく乗れてしまった。残念ながら。
17:30発のシカゴ行きのユナイテッド航空で出国する。


日本から南米へは、多くの場合、アメリカ合衆国で乗り継ぎをする。
今回は成田→シカゴ→ヒューストン→リオデジャネイロと2地点も経由しないといけない。
アメリカ人というのは、自分たちが世界で一番偉いと思っているヤンキーたちだ。
その性格は、乗り継ぎで立ち寄っただけで、十分に確認できた。
そもそも「『アメリカ』といえば一般的には合衆国のことを指す」という思い込み自体が、すでに傲慢だ。


②シカゴ〜ヒューストン


十数時間乗って、現地時間15時にシカゴに着く。
シカゴから次の飛行機が出るまでの待ち時間は3時間だ。
普通ならば、時間を持て余すほどだ。だが、あけてびっくり、シカゴの入国審査(この国は通り過ぎるだけでも一度入国審査を受けないといけない)には大量の行列ができ、2時間待ってもまだ入国できない。
さすがに焦ってきて係員らしき人に「次の便の時間まであと1時間きってるんだけど」と訴えてみたら、大げさに肩をすくめて(あの米国人がよくやるやつ)「Well it's your Problem(知ったことじゃないね)」とかぬかしやがった。


普段なら焦りまくるところだが、今回に限っては冷静だった。
なぜなら、この時は圧倒的にブラジルに行きたくなかったからだ。
「もし行けなかったら、それでもいいやあ」とか思ってた。
シカゴに来るまでに12時間、劣悪な飛行機に乗ってきている。
そう、ユナイテッド航空は過去に乗った航空会社でワースト3に入る。
中国系の航空会社にも劣るシートの座り心地、客室乗務員の態度の悪さ、食事のまずさ、トイレの汚さ。
海外の航空会社でも、日本人の客室乗務員はそれなりだが、この飛行機は例外だった。
某広告代理店のお局派遣社員もびっくりの高慢(コーマン)かつやる気のなさっぷりだった。


話はそれたが、そんな劣悪な飛行機に12時間も乗っていたのだ。
あと15時間以上も乗るなんて耐えられない。
この時点ですでに気力は果てていた。
過去に行ったどんな国よりもデンジャラスなブラジルに挑戦しよう、
なんて意欲は消えうせていた。そんなチャレンジいらない。


ここで次の飛行機に乗れなかったとしても、自分の落ち度ではない。
ブラジルにも行かなくてすむ。最悪帰りの飛行機が見つかるまで、安全なシカゴ観光でもして、残りの休暇は日本でのんびり過ごそう。
そんな夢想をしていたが、時間ギリギリで審査を通過し、乗り継ぎ便に間に合ってしまった。残念ながら。


参考までに記しておくと、米国人がフレンドリーというのは、空港においては全くの幻想である。威厳がある、とも違う、ひたすら偉そうなのである。
特に太っている黒人。小錦や曙を想像してもらいたい。あれが一番だめだ。ゴスペルにしか聞こえない発音と抑揚で、「どうだ、俺は偉いんだ!」と自分の存在を主張してくる。このボストロールが。
それから、通過するだけでも14ドルとられる。なんて排他的な国だ。


③ヒューストン〜リオ・デ・ジャネイロ


とにもかくにもシカゴを出発し、ヒューストンに向かう。
国内移動だからか、ヒューストンでの乗り継ぎは比較的楽だった。
ヒューストンの空港は全力で「テキサスです!カウボーイです!!」
というアピールをしていた。テキサスっぽいレストランもあったし、
テンガロンハットやブーツっぽい土産物屋もあり、楽しい空港なのだと思う。
しかしこの時点ですでに、劣悪航空会社と排他的権力国家の審査によって、
気力も体力もゼロだった。鏡を見たら目は死んでいた。
惰性で歩き、飛行機に乗り込む。目的地まであと9時間くらいだ。


ユナイテッド航空は相変わらずの座り心地で、全然寝られない。
あきらめて、映画を見る。なんかカメの忍者が暴れる映画や星条旗のスーツをまとったアメコミのヒーローものを見た気がするが、意識が朦朧としていたので、まったく覚えていない。
3本目の『世界から猫が消えたなら』を途中まで見たところで着陸態勢に入った。


世界から猫が消えたなら』に、旅で行く予定のブエノスアイレスイグアスの滝らしきところで撮影したシーンがあって、少しだけ気力が戻った。
そして戻った気力を振り絞って、空港に到着してから宿泊地にたどり着くまでのルートを反芻した。
とりあえず、食事も観光のホテルついてから考えることにする。
この無法国家で、無事ホテルにたどり着くことだけを考えるのだ。


着陸した。現地時間09:30。
日本を経ってから29時間、家を出てから33時間が経っていた。