【南米モン遊記】6日目

6日目である。だんだん何日目なのか、自分でも分からなくなってきた。


快適な部屋、快適なベッドのはずなのに、あまり寝られなかった。
やっぱり旅行中は寝られない体質のようだ。
6時くらいに寝るのをあきらめて、パッキングを始めた。
今日からまた相部屋かと思うと憂鬱だ。


久々にちゃんとした朝食を食べ、荷物をフロントに預け、イグアスの滝に向かう。
天気もよくテンションも上がってきた。
平日だが、国立公園のチケット売り場には列が出来ており、盛況だ。
期待が高まる。
さらに、何人かの観光客が、ひょうたん型の何かを飲んでいるではないか!
ひょうたん型の何かに、おしゃれなストロー=ボンビーリャを刺して飲んでいる。
やっと見つけたマテ茶。観光客は多分、国境を接しているアルゼンチンかパラグアイから来た人で、やはりマテ茶はブラジルのものではないんだろう。
だから昔からKAZUは嫌いなんだ。


公園内は広いので、無料バスで移動する。何も知らないで来たら、どう回っていいのか分からないだろうが、イグアスだけは何回も下調べしたので、どう行動すればいいのかは完璧に把握している。


ブラジル側で見るものはそんなに多くない。
多くないどころか、滝に沿った遊歩道を歩くくらいで、あとは、滝とは関係ない様々なアトラクションやレストランがあるくらいだ。
というわけで遊歩道の入り口でバスをおり、歩く。
最初のうちは、「へえ、キレイだな」くらいな感じだが瀑布に近づくにつれ、だんだん迫力が増してくる。


ここの滝はどれも滝口と滝つぼの段差が大きいため、動きも音も、これまで見たことがあるものとは段違いだ。
大きな滝って間近で見ると、水の流れに引き込まれていくような不思議な力がある。
キレイな建築物もいいし、雄大な自然もいいけど、動的な自然はまた違った魅力がある。


イグアスにはいくつかの瀑布があるのだが、最大の目玉は一番奥地にある「悪魔ののど笛」と呼ばれる瀑布で高さ、横幅ともに想像を超える規模だ。
そこまで近いわけではないのに、音がすごい。
「滝の音」なんて、これまで聞いたことがあるようでなかったということを知る。


そして、「滝の近くには、いつでも虹が見える」という話を聞いたことがあったが、
ホントに見える。幻想的だ。
オレは虹が好きだ。特にフランス語の虹が大好きだ。
時は奏でて、想いは溢れたよ。


どうでもいい話だが、「悪魔ののど笛」はスペイン語だと「ガルガンタ・デ・ディアボロ」。
この響きが、RPG好きの自分としてはたまらない。FFとかに出てきそうな名前だ。
でも、こうやって晴れた日に虹がかかっているのをみると、悪魔的というより、天使的な光景だけど。


しばし感傷に浸って、引き上げることにする。
ホントは展望台でランチ食べていきたいけど、この後の予定を考えるとのんびりは出来ない。
日のあるうちに、アルゼンチン側の宿に着いておきたいからだ。
昨日も言ったが、最初に滝の全体像をブラジル側からつかんでアルゼンチン側で間近から見る、というのが観光パターンとして多く、オレもそうすることにしていた。


フォス・ド・イグアスに戻り、アルゼンチンペソに両替する。
宿に荷物を取りに行ったら、結構いい時間になっていた。
この快適な宿を出るのは名残惜しいが、カカーみたいなイケてるあんちゃんに
お礼を言って、アルゼンチンサイドの滝観光拠点、プエルト・イグアス行きの
バス乗り場に向かった。


税関でずいぶん時間を食って疲弊したがプエルト・イグアスのバスターミナルについてからは、宿まではすぐ近くで、迷うことなく辿り着けた。
宿は、リゾートっぽい雰囲気のゲストハウスだった。
広さも清潔さも、リオの日本人宿とは比べ物にならない。
熊みたいな受付のあんちゃんも、いかついのは外見だけでフレンドリーだ。分からないことは何でも聞いてくれ、と言ってきた。
アンジェロという名前らしい。


でもやっぱりドミトリーにしたことを激しく後悔した。
多少値が張っても個室にするべきだった。
せっかくいい宿でも全然リラックスできない。
オレは2段ベッドの下を割り当てられたが、上の段の人が周辺に荷物を置いているため、オレの置き場がない。
しかもオレ以外は知り合い同士なのか、全員ドイツ語でコミュニケーションをとってる白人ばかりだ。
みんな揃って、オープンスペースのダイニングで宴会を始めた。アウェイ感が半端じゃない。


混み合う前に共同シャワーを浴びて、明日の支度を整える。しかし寝るにはまだ早い。かといって街を観光するには遅い。
本当はこういう時、バーにでも行くのだろうが、あいにくオレは酒が弱い。
知らない町で酔っ払うのは怖い。


プエルト・イグアスはざっと歩いた限りでは、フォス・ド・イグアスとは趣が違うが、これまた治安の良さそうな街だ。
フォス・ドがアメリカの田舎町っぽいとしたらプエルトはメキシコ色が強い町のように感じた。
できれば町歩きしたいところだがそれも明日にすることにした。
のどか過ぎてつい忘れてしまうが、ここは南米なのだ。
ヒマつぶしにアンジェロと話でもしようと思って受付に行くと、マテ茶を飲んでいるではないか。
ふと思い立って、土産用に買ったボンビーリャとグアンパだかボロンゴだかいうドラクエ5ベビーパンサーみたいな名前の容器を持ち出して、「これの使い方教えてくれ!」と歩み寄る。
茶葉も買ったものを用意して、作ってもらったが、味見した後アンジェロは「これはマズイ!こんなのマテ茶じゃないよ」と言って、自分が使っている茶葉を分けてくれた。ホントにいいやつだ。
「こうやってお湯を継ぎ足しながら飲むんだ」と言って、サーモスも貸してくれた。
やっぱりマテ茶はブラジルじゃねえな、と強く心に決めた。


こうしてパーティしているドイツ人の集団を尻目にマテ茶を満喫し、イグアスの夜は更けていった。


寝る前、上の段のベッドに寝ているスペイン人らしき若い女性(スペイン語を喋り、ドイツの集団に混じらなかった)とナンかしようという気が全く起きなかったかと言えば、そんなことはなかった、ということを白状しておきます。