【NYCチン遊記】1日目

海外に出かける当日はいつだって憂鬱だ。
不安やかったるさが一気に背中にのしかかってきて、ついつい準備もグズグズしてしまう。
そして今回は、当日だけではなく前日から憂鬱でただただ面倒でなるべく準備をしないようにしないようにと心がけた。


おかげで成田に行く当日になってもしっかりと何も準備はできておらず、いつもの様に呆けた顔でテレビの前に座って『にじいろジーン』から『ぶらり途中下車の旅』へと土曜朝のゴールデンコースを辿り、「やっぱり旅なんてのは途中下車くらいがちょうどいいよな」との思いを強くし、再びフトンに潜り込んだ。
いつだって旅はなかなか始まらない。


12時前くらいに目を覚まし、仕様がねえ、せっかくだからなと腰をあげ準備に取り掛かる。俺はとにかく荷物が多いのが大嫌いで仕方がない。できれば手ぶらでどこへでも行くのが理想だが、今回は手ぶらにしちゃうといろいろと不都合がありそうなので、ブツブツ文句を垂れながらリュックに荷物を詰めていく。
今回はこのリュック1つで乗り切ることにした。リュックだけというのも自分探しのバックパッカーのようで貧乏臭くてイヤなのだが、キャリーケースは移動が億劫になる。なにはなくとも機動力、が俺のモットーだ。荷物はなるべく少なく。ちょっとくらいの不安、不便もまた味わいだ。いつでも心に冒険を。


カバンはパンパンになったが逆に(なにがかは不明)「カバンパンパンなのでお土産買えませんでしたあ」という言い訳にもなるからこれはこれで好都合だ。
やっこらしょ、と重たいカバンを担ぎタクシーを止めて京成上野駅へ。さっさとスカイライナーへ乗り込み15時くらいには成田空港に俺は降り立っていた。ちゃっちゃとチェックインを済まし、適当な店で早速酒盛りを始めた。
ングングとビールを飲みながら今回の旅程を確認する。ニューヨーク、すなわちNYCへは大体13〜14時間くらいのフライト。せっかくの旅も、行きの飛行機でヘロってしまっては台無しだ。なんだか以前南米にわざわざ貧乏航空会社で行ったことがあるような気がするが、きっとそれは俺の知らない俺だろう。オルターエゴってやつかもしれない。自分はすっかりおじちゃんで体力に大変不安があるので、今回は贅沢に天下日の丸のJALで、しかもプレミアムエコノミーをぶちかますことにした。何よりも安心、安定が重要である。いい年こいて冒険だなんだとほざいてる奴は抜け作のバカヤロウもいいところだ。困ったらカネで解決すればいい。カネ払えばいいんだろ、カネ。なにはなくとも安心、が俺のモットーだと思いながらビールをどんどん片づける。
まだまだ旅は始まらない。


今回はプレエコ席ということでサクララウンジが使えるらしい。「じゃあせっかくですから」とラウンジに侵入してみると、嗚呼なんということだ、生ビールに始まり種々アルコール飲み放題、カレーやらお茶漬けやら食べ放題の至れり尽くせりであった。さっき店で飲む必要なかったじゃん、と貧乏臭いことを考えながらビールをあまり目立たないようにしこたま飲んだ。振り返ってみると、今回の旅行ではこのサクララウンジが一番のハイライトであったかもしれない。
それしてもサクララウンジの素晴らしいことには少々驚きを禁じ得ない。俺の知らないところで金持ちはこんな良い暮らしをしていたのか。許すまじブルジョワジー!俺はいつだってワーキングクラスの味方だ!と拳を固めつつ、こそこそとカレーを食った。だいぶいい酩酊具合になった頃には搭乗が始まっている。ゲートに向かうと、いるわいるわ貧乏席の奴らどもが。見苦しいことこの上ない。「オラオラ、どけよこの庶民どもが!」と貧乏人どもを蹴散らしながら(ファースト、ビジネスの御方々には目を合わせない)機内に乗り込みドッカと席に座る。やっぱり世の中、カネでほとんどなんとかなるよな!
ようやく旅が始まりかけてきた。